狼少年

「オオカミがやってくるぞー!」

 

少年は村の大通りを走りながら大声で叫ぶ. 

村の外れまではもう少しだ. 少年は息を切らしながらも叫ぶのを止めようとしない.少年にはこれしかないのである. 村人たちがそれを信じなくても毎朝それを叫ぶ. 畑仕事に出かける村の大人たちが冷ややかな目で少年を見ている. 

 

これでもだいぶよくなったのだ. 最初の頃は半々であった. それでも半分くらいの人は信じてくれた. でも毎日繰り返すにつれて, 自分を妨害する大人が出てきた. ひどい時は裏通りに連れて行かれ, 数人に囲まれたこともあった. それでもやめなかった. 

 

そのうち自分の周りには自分の言うことを信じる仲間がふえた. 村の中を走っていると自分たちのためにありがとうと感謝するものも増えたのである. 熱心な仲間たちは自分を妨害する集団から自分を守るようになってくれた. そのうち自分のアンチたちは自分に関わるといいことがないことを知り直接声をあげることは少なくなってきた.

 

自分の行動は何一つ変えていないのに, 自分の周りの環境が変わっていく. 少年はなんだかとても面白い気持ちになる.

 

自分はただ毎日叫びながら村の大通りを走っているだけなのに 

 

自分は別に村を良くしようとか誰かを助けようと言う気持ちなんてない. 自分の行動に反対するものの意見にも興味がなければ, 自分を祭り上げてくれるものたちの顔色を伺う気もさらさらない. ただしたいことをしたいようにしているだけである. 

 

自分もこれがいつ飽きるかはわからないが, 薪をくべる季節は走っていて清々しい気持ちになれたからその頃まではやろうかなと思う.

 

 少年は腰掛けていた切り株から立ち上がると, ぐんとノビをした.

さあそろそろ今日も始めようか.